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本書を手にしてくださった方は、保育や療育などの福祉現場や教育、看護・医療の現場において、身体の動きに不自由があったり、重症心身障がいがあるお子さんとご家族をサポートされておられる方がほとんどのことと思います。子育て中の親御さんもおられるのではないでしょうか。きっと皆さんは、子どもたちに楽しいことを経験させてあげたい、もっともっと笑顔ともてる力を引き出してあげたい、家族に幸せになってもらいたい、そう願って日々ご尽力されていることでしょう。
どんなに重い障がいがあっても、子どもはみんな、より健康に育ち、幸福になる権利をもって生まれてきます。その権利を保障し導くことが身近にいる私たち大人の大事な役割です。一方で多くの子どもたちが、機能の改善のためにつらい治療やリハビリテーションに日々向き合っています。もちろん、医療は大切です。しかし、それ以上に子どもたちが求めているのは、わくわくドキドキ心と身体が躍る「遊び」なのです。
ムーブメント教育・療法とは、子どもの育ちの原点である楽しい運動遊びを通して、子どもの「からだ(動くこと)・あたま(考えること)・こころ(感じること)」の発達を支援する教育および療育方法です。本書は、筆者とともに25年間にわたり医療型児童発達支援センター「ひだまり」で実践してきたムーブメント療育のノウハウを紹介し、みなさまの一助になればと出版社クリエイツかもがわにお力をいただき創刊の運びとなりました。
本書は、世界中が新型コロナウイルスに直面し、新たな生活様式に向けて模索している最中での執筆となりました。自粛生活を通し、いかに子どもたちが友だちと集い遊んだり、運動したり、学んだりすることを求めていたかを私たち大人は再認識させられました。だからこそ、私たちの創意工夫によって、子どもと家族を笑顔にし、発達を応援するムーブメント活動に取り組んでまいりたい所存です。
本書がみなさまのお役に立ちますことを願っております。
2020年7月
監修者 小林芳文
Contents
PART 1 ムーブメント療法の理論を学ぼう
1 子どもの発達と運動遊び
2 ムーブメント教育・療法
3 医療型児童発達支援センター「ひだまり」のムーブメント療育
PART 2 ムーブメント療育の実践を学ぼう
1 感覚運動機能を育てるムーブメント
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「見る」「聞く」「触る」を楽しむ:ムーブメントスカーフを使って/風船を使って/あずき(小豆)を使って
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身体での揺れを楽しむ:ユランコで揺れ、移動を楽しむ/トランポリンを使って
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車いすに乗って動きを楽しむ:音や指示に合わせて動く/車いすダンス
2 身体意識を育てるムーブメント
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身体像・身体概念の育ちを支える遊び:親子スキンシップ体操
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身体図式の育ちに視点をおいた遊び:ビーンズバッグ
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身体意識を育てる空間遊び:スカーフの道を通ろう/トンネルをくぐろう


PART 3 環境・遊具を活かしたムーブメント療育
1 ムーブメント遊具を使って
ロープを使って/プレーバンドを使って/ムーブメントパラシュートを使って
2 ストーリームーブメント
絵本の世界を楽しむ「温泉であったまろう!」/冒険を楽しむ「宝探しの旅に出発!」
3 光のムーブメント
4 野外ムーブメント
5 水中ムーブメント


PART 4 実践をより良い支援につなげよう
1 子どもが笑顔になる保育者のかかわり方の工夫
2 ムーブメント環境としての音楽の活用
3 障がいの重い子どもの「できた!」をかなえる遊具と支援の工夫
4 プログラムづくりのポイント
5 子ども一人ひとりの力を引き出す工夫
6 家族支援に活かすために